2022 / 3 / 2

ボクは今日で13歳になったよ。

国中の民達が祝福してくれたんだ。


何十万というチュルホロの民が、
アポロン広場に押し寄せて、
まるで海の波みたいに蠢いて、
城下を見下ろすボクの成長を祝ってくれていたよ。


死ねえええええええ!!!
食料をよこせえええええええええ!!!!!
独裁政治よ、滅びろおおおおお!!!


そんな祝福の言葉を、皆がかけてくれていた。
火炎瓶で綺麗な花火をあげてくれる人も。

パパンッパンッ
キャアアアアアアアア
タタタタタン、タタタタッ
ギャアアアアアアアアアア

衛兵隊が、その波に銃を乱射して、
広場の一角に死体と血が面白いように転がる。


はは、みんな、そんなに興奮しちゃって、ボク嬉しいよ。
おい、ングラ、もっと派手にやってくれない?
みんなの期待に応えなくっちゃ! はやく! ほら!

ングラが誰かに合図を送ると、
トンッと低い音がした。
城壁に備えられた砲身から煙が上がっている。

いつの間にか、広場の上空に、
真っ黒な球体が打ち上げられていて、
それは真っ逆さまに、大勢のうねりの、丁度真ん中に落ちた。


真っ白い光が広場を包み、
大きな爆発が起こって、
何万人という人が木っ端微塵に吹き飛ぶのが見えて、
それから、1秒遅れて、ものすごく大きな音が響く。

きゃははははっ
やったやった! 花火だー!
ありがとうみんな! ありがとうー!
ハッピーバースデー!


ねえ、ボクには、できないことなんてないよ?
なんでも手に入るし、
どこにだって花火を落とせるんだ。

何故なら、この宇宙の百の星々が、
ボクのお父さんにひざまずくから。

どんなに大きな化け物も、どんな大金持ちも、
みんなボクのお父さんの前では、
おでこを土になすりつけるんだよ。


あ、そうだ、
それに、ボクにはお父さんと同じ力があってね、


おい、ングラ、誕生日祝いに死んでよ。


そう言うとボクは、右手を大きく挙げてみせた。
次の瞬間、目の前でングラは噴死した。


ほらね?


血しぶきが顔にかかった。ちょっと生暖かい。
舐めると鉄の味がした。

次、誰が死ぬ? ねえ誰?

誰も返事をしなかった。


あ、そう、じゃあいいや、
ふぁーーー。
なんだか眠くなった。寝よーーっと。


無数の死体、無数の悲鳴、
チリチリと何かが焼ける音、時たま銃声
ベランダの下から聞こえてくる色んな音が
心地よい子守唄となって、
ボクはお昼寝をした。


次に目が覚めた時、
空はもう暗くなっていて、

ボクは男に口を塞がれていた。


青いサングラスとハチマキをした賊だった。


命の危険を感じて、
ボクは右手を振りあげる。
ングラを殺したように、こいつも簡単に殺せる。

…そう思ったけど、
何故かそいつには力が利かなかった。


悪いな。 俺も、お前と同じで、人が絶望するのが好きだよ。
別の宇宙なら、いい関係になれたかもな。
だがこの宇宙じゃ、大勢が、お前が居ない世界の方がいいってよ…。
まあそういうことだ。


ボクは両手と両足を振り回して暴れた。
チクリと、首筋に、熱い痛みが走る。

賊が持った赤い手裏剣の刃先が、
ボクの喉を掻き切るのが分かった。

息ができなくなった。


………


恐怖で飛び起きた。
心臓が痛いくらいドキドキしている。
全身がびしょ濡れだった。


汗かと思ったけど、違った。

ボクはアスファルトの上に倒れていて、
夜空から降りしきる雨でずぶ濡れになっていた。


何台もの車の音がする。クラクションも。

目の前には、古いコンクリートの、
3階建てのビルが建っている。

入り口にはこう書かれていた。


"西新井音楽事務所・Darkside Lupiaronas"


はは、どうなってるんだろ?
夢なのかな? 違う? 喉も切れてない。
なんだか分からないけど、面白そう!
だって、目の前にボクの名が書いてある。
きゃはははっ。

ボクは雨の中で、笑った。
頬を雨水がつたう。
舐めると鉄の味がした。


ボクの名は、ダークサイド
好きなこと、人が泣き叫ぶこと。


戻らない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!






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第4話 ダークサイド