2022 / 5 / 11




事務所1Fの真ん中のテーブルに、
戻ってきたBが包みを置いた。

そのテーブルの周囲には、全員が座っている。
7人のメンバーに加え、社長もいる。

「はい、食べよ」
と社長は言ったが、
みんなは黙ったまま、じっとしている。

「よっしゃー食べるぜー!」
と、Bが嬉しそうに包みを開け、真っ先に食べようとした所を、
社長に手をはたかれ、次に耳をつまみあげられ、
Bはおあずけをくらった犬のように、しゅんとなった。

「まーまー、最初はこんなもんだろ。
俺だって初めて駅前でテーブルもなしに占い始めた時は、
初日は2人しか客が来なかったんだぜ」

「そうそう、気にしないで食べよ」と社長。

「2人もきたんだ・・・」と、
ウランは真剣に真剣に羨ましそうに言った。

「2人つーか…、0人と変わらねーだろ、はは…」と、
ピースは取り繕うように言い、
ピザを一枚手に取ると、
隣の隣の隣に座っているオメガの方へ差し出し、
「まー食べてさ、気を取り直そうぜ」

するとオメガはさっと立ち上がり、
ピースを避けるように更に隣へと移動して座り、
ちょっとだけピースを睨んで、うつむいた。

行き場を失ったピザを、ピースはとりあえず自分の口に入れた。

「うめえうめえ。ヴィッ君も食おうよ」

ピースの隣に座っていたヴィヒトレイは、
ピースの方をゆっくりと見て、
それからピザを一枚とって食べた。

「もぐもぐ・・・うん、うまいな・・・」

「なー、ほらみんなも食べようぜ」

「才能がないんだ」と、エールシオンがぼそりと呟く。

「え」
「え」
「え」
とピースとウランとBが反応した。

「当たり前じゃん、まだ最初だしさ」と、ウラン。

「俺達が歌い出す前は、公園には5人くらいの子供と大人がいたんだ。
それなのに、俺達が歌い出すと、1分も待たずに、0人になったんだぞ」

気まずい空気に、ピザを食べていたピースの口は止まり、
ヴィヒトレイの租借音だけが静かに響く。

「うまいな・・・」

そう言うと、ヴィヒトレイは2枚目のピザを手に取った。
それに続くように、社長もピザを取り、Bもピザを取った。
それを見て、ピースも再び口を動かし出す。

「じゃあどうすんの? 辞めんの? 家帰るん?」

どこか怒ったような棘のあるトーンで、
ウランがエールシオンに問い質す。

エールシオンはウランを睨み返すと、
「帰るわけねえだろ」
「じゃあ何それ、弱音?」

エールシオンは目を見開くと、
ウランの襟から伸びているリボンみたいなやつが結ばれているやつをつかんで
ぐいっと引っ張り、
「うっ」とウランが呻くと、
エールシオンはため息をついて、
再び離した。

「もっときつく締めようよ、途中でやめないでさ~」
と、ダークサイドが茶化す。

そのダークサイドに、ヴィヒトレイがピザをすっと差し出す。
ダークサイドは犬みたいに首を伸ばしてピザを丸呑みした。

ヴィヒトレイは続いてもう一枚を取ると、
隣の隣にきていたオメガの方に差し出したが、
オメガは再び立ち上がって、
また反対方向の隣へと移動した。

差し出されたままのピザは、ダークサイドによって再び丸呑みされた。

社長は2枚目を食べた。
ピースも2枚目を食べた。
Bはいつの間にか3枚目を食べている。

「ふ・・・初心だな」

と、傷心する彼らを見ていたタイムレスが口を開いた。

「そういう言い方はねぇだろ、おっさん」と、ピース。

「ならなんだ?
学芸会でもやってたつもりか?

おまえらがここでベソかいてる間にも、
星の数ほどの地下アイドルやボカロpや
子役やYoutuberやインスタグラマーやらが
血眼になってフォロワーやらファンを取り合ってる。

また一方では、
既に天下を取ってるトップアイドル達が、
この今も、一分一秒を惜しんで歌やダンスのトレーニングをしていて、
光の速さで俺達からどんどん遠ざかっている。

俺達に弱音を吐く時間なんてねえんだよ」


皆、タイムレスのその言葉に、
何かを感じたように押し黙った。


…ただし、ヴィヒトレイだけはピザを食べ続けていた。
体が大きい彼は、人一倍お腹が減っていたのだ。


「そうだよ、練習しましょう」とオメガが立ち上がった。

「そうだな…。首の紐引っ張ってごめん。
タイムレスの言う通りだ…練習しよう」とエールシオン。


…いや、よく考えたら、
体が大きいのはヴィヒトレイだけではない、
もう一人いた…。

「練習はまた今度だ…
ヴィヒトレイ、俺にも一枚とってくれないか、
いや二枚」とタイムレス。

ヴィヒトレイは気をきかせて、3枚取り、
それをタイムレスの口に入れてやった。


「おいっ、こうしてる間にも、引き離されてるんじゃねーのかよ!」と
エールシオンはつっこまざるを得なかったが、

「ちょっとやそっと練習したくらいで、
トップアイドルとの差が縮まるるわけがねえだろ…
今日はピザパーティーをして全てを忘れて寝るのが必勝法だ。
分かったら、とっととピザを食いやがれ」

と、タイムレスはかっこつけて言ったつもりだったが、
既に3枚のピザが口に入っていたので、
もごもご言ってて、何を言っているのかは、ほとんど分からなかった。


「いい一日になったわね」と、
社長はぼそりと言って、
ピザパーティーの夜は更けていったという。


戻らない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!







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第10.22話 ピザパーティーは光速を超えるか否か