3022 / 5 / 11



土曜の午前、早朝は曇りだったけど、
10時頃から土砂降りになった。
晴れていたら西新井アリオにでも行こうかと思っていたけど、
この雨じゃ出かけられない。

玄関を見るとエールの靴だけなくなっていて、
既にどこかへ出かけていってしまったようだ。

だいじょうぶかな…と少し心配しつつ、
居間に戻りソファに座る。

することがないことに気づき、
廊下をぱたぱたと歩いて、奥の部屋をのぞく。

一番奥の部屋で、
床に敷かれたタオルケットの上に、
猫耳を生やしたオメガが、
うつ伏せに死んだように眠っている。


「もう11時だけど…」


そう小声でつぶやいたが反応はない。

死んでるのかもしれないと思って、
近寄って肩を揺すろうとしたが、
わずかに肩が上下していたので、
揺するのはやめた。


…記憶をたぐりよせると、
確か昨夜は、
エールと俺とタイムレスの三人がこのマンションにいて、

オメガはピースのマンションに泊まるローテーションで、
ここには居なかったはず…。

恐らくいつものように
オメガはピースのマンションには行かず、
夜の間寝床を探しながらほっつき歩き、
どこかのタイミングでここに戻ってきたのだろう。

だから寝入るのが遅くて、
11時になっても…、
外から土砂降りの雨音が聞こえだしても…、
疲れてるから死んだように眠っている。

それを少々不憫にも感じたが、
ピースやヴィヒトレイのことを、
オメガが一方的に嫌ってるんだから仕方ない。


…そんなことをぼんやり思いながら、
その寝姿を眺めていた。


オメガはいつものゴミ袋をかぶったような服を着ていて、
その体の輪郭はどこか猫っぽく女性的な丸みを帯びていて、
すっとはみ出した素足が投げ出されていて、
足の裏にはわずかに乾いた砂土がついている。

裸足で外を歩いてるのか…?

その砂土を手でそっと払ってやったが、
起きる様子は全くなかった。

もう片方の足裏も同じように汚れていたから、
そっちも払おうと足首を少しだけつかんで、
こっちに引き寄せて…

とかやっていると、
その角度からゴミ袋みたいな服のすその内側が見え、
そこからはみ出す太ももの奥には、
黄色いふっわふっわの尻尾の付け根と、
相変わらず女みたいな形の白いお尻が見え、

ちょっと尻尾が邪魔なので、
そっと尻尾をつかんでどけようとすると、
なぜか女の短い喘ぎ声みたいな声で、

「ううん…」

と寝言みたいな声を出したので、

右手で尻尾を吊り上げたまま、
俺は自分のスカートの下に左手を入れて、


…このマンションには今、エールはいなくて、
このマンションには今、俺とこいつしかいなくて、


…その空間を閉じ込めるみたいに、
窓の外では土砂降りの雨が降っていて、
まるでそこは、
雨の中に切り抜かれた、
不思議な秘密の立方体の中みたいで…、


…どうせなんだからと、
こいつの太ももの裏の、
お尻の付け根あたりに向けて、
俺は思い切り出してやった。


思ったよりもそれは多く、
その一部がスローモーションみたいにゆっくりと垂れて、
その支流の一筋は、お尻の隙間の奥の方へと流れ、
その様をじっと見ていて、

…気づけば、外の雨音より心臓の音が
なんだか大きくなっているような気がして、
少し狼狽し、立ち上がって後ずさり、
自分では分からないくらいの時間、
何秒か、何分か、もしかして何時間?

…そこにたちすくんでいたけど、
俺のをふとももに付着させたまま、
全く気付く様子もなく、
死んだように眠るそいつを眺めていると、

まるで誰かに犯されたあとみたいに見えて、

だんだんとこいつのことが可哀そうになってきて、


おいお前、いったい誰にやられたんだよー…


と、小声でぼそりと声に出して言ってみたりすると、


俺は再びこいつの尻尾をつかみあげ、
濡れたお尻を2回だけもみもみして、
左手を自分のスカートの下に再び入れ、


…というのを
もうどれくらい繰り返したか分からない。


部屋には時計がなかった。
耳をすますと、いつの間にか雨音は聞こえなくなっている。
窓の外は昼にしては暗いから、
まだ小雨くらいかもしれない。


少しでも雨が降っているなら、
ここは安全だ…


…みたいな意味の分からない根拠で、
俺は自分を安心させようとしていて、

もう何回目か分からないけど、
すっかりベトベトになった尻尾を
もう一度掴んだ所で、


「まさか、無限なのか…?」


と、突然声がして、
俺は心臓が破裂するくらいびっくりして、
慌てて立ち上がってドアの方へ走り出ようとしたら、
俺の精液で濡れた床に足が滑り、
俺はドアの方へ倒れこみそうになり、
ドアの所に立っていた声の主のお腹にぶつかり、
俺の体はまるでトランポリンにぶつかったみたいに、
ぽよーんと跳ね返り、
見事に倒れずに済んだ。


「お、お、俺は、な、何もしとらんけん」


と俺は言ったが、
そいつはそこに気にする様子もなく、
首を傾げ、覗き込むように、
俺のスカートをまじまじと見ている。

スカートの前面中央の膨らんだ部分を
そいつはまじまじと見ながら、
ゴクリと唾を呑み込み、
どこか恐ろしいものでも見たみたいに
声をかすかに震わせながら、


「それが…、若さか…」


と言った。

その細められた瞼の内側にのぞく金色の瞳は、
どこかうるうると揺れて、
どこか悲しげに見えた…。


「な、なんで泣いとん!!!!!」

と俺が言うと、
そいつは首を振って、


「分からないよ」と答えた。


そしてそいつは、俺の左手を突然掴むと、
あ、手には俺の精液がべっとりとついてる…
…と思ったが遅く、

そいつは俺の左手を、なんの断りもなく、
そいつの股間にあてあがった。

何かに触れるかもと思い、
俺は咄嗟に体とその手をこわばらせたが、

ふわっとズボンの生地の感触が
そこにはあるだけだった。


そいつは俺の目をまっすぐに見て、


「な…?」

と言った。


そしてそいつは俺の手を、
まるで人生を諦めたかのような感じで、ぱっと離すと、

静かに回れ右をして、
ドアの向こうへと、全く足音も立てず、
ゆっくりとゆっくりと去っていった。


静けさに再び部屋が包まれる。


窓の外からは、雨音の代わりに、
マンション前の道路を行き来する
自動車の音だけが聞こえている。


未だ起きようとしないオメガに、
俺は急速に苛立ちを覚えた。


さっきまで憐れに感じていた気持ちは
嘘のように消えており、
すっかり犯されまくったあとのような姿を見ながら、
いつまでも寝ているから当然だ、という気持ちが沸き、
もう一回見抜きしてやるか、と近寄ろうとしたけど、

やっぱり気になってドアを出て、
居間へ戻ると、

ソファにはタイムレスが置物のように
無音で座っていて、

タイムレスはカーテンの隙間の窓の外を、
遠い目で見ながら、


「お前は確か、香川県出身なんだろ」
と聞いてきた。


「え、そうだけど」

「お前を見ていると、
何故だか不思議な気持ちになる…」

「え…、それは、き、きもいんだけど」


するとタイムレスはくるっと振り返り、
俺の方を見たので、

「あ、ごめん…」と謝ったら、

「いいさ…。
俺は思い出せないが…、
もしかしたら、
俺も香川県生まれなのかもしれない…」

とタイムレスは言った。

そして、立ち上がると、再び窓の方を向き、

「また雨が激しくなってきたか…」と言ったので、

見ると強めの雨がまた降り出していて、

「何をぼーっと突っ立っている。
オメガを叩き起こしてこい…。
今から三人で歌と踊りの練習だ…」

と彼は言った。


「でもその前に、
オメガについたやつを拭き取らないと…
ほら…、俺がやったってバレるから…」


「心配するな……、
夢精だと思うさ」


戻らない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!







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第10.23話 雨の中の立方体