2022 / 2 / 24

その4つの国は、長い時間の中で、
いくつもの動乱と変遷を繰り返し、
いくつもの伝承、7つの教えや8つの教えが、桜と死の伝承が、
鳥使いの伝承が、シシの伝承が、
いくつものいくつもの伝説を生み出し、
いくつものいくつものいくつもの…

…やがて、
境は溶け合い、
そこは今、1つの大国となっている。

魔王と幾人もの聖天使を生んだ雪の国、
タナティア。


国は、かつての4国の首長達による議院が法を立て、
4国で唯一王族が残存していたマーザン王家を、
新タナティア国の君主として頂く…。

国は1つとなっても、
国民は未だ、
魔王派と天界派の2つの宗派によって分断している。

魔王排出後も尚、
マーザン地域での天界信仰は根強く、
かつてのマーザン王家である、
現タナティア王家においてもまた、
折に触れて、秘密裏に古来の儀式は続いてた…。


オメガは、
生まれる前から、武神オメガの再来を願われ、
オメガと名付けられた。

しかし、
オメガが生まれた時、
オメガは人間の姿だった。
…猫人である両親の間に生まれたにも拘らず。


オメガは、人間との間子であると噂され、
幼少期より心を病み、
顔に袋を被って生活をした。


そして、オメガが16となり、
元服を迎えたその日、
王家の皆が見守る中で、

朱雀が1000年に一度、
卵を産む時に流す血の涙が結晶化してできるという
"赤き実"を、
オメガは食べた。


それは、疑いのある者を見定めるための、
禁じられた古い卜術の儀式。


…すると、
女の子のように細いオメガの両手と両足に、
黄金の文様が浮かび上がったかと思うと、
頭には黄金色の猫耳が生え出し、
お尻からはふさふさの毛で覆われた太い尻尾が生えた。

…皆からどよめきの声が上がる。

なぜなら、
もしそれで何も変化が起こらなければ、
オメガは、王族の身分を
剥奪されることになっていたからだ。

しかし、
見事、猫人へと変貌することができれば
オメガは正式なる獅子騎士となり、
王位を継承できる…!


ところが、
猫人へと生まれ変わるかと思われたメタルモルフォーゼは
そこで、中途半端にぴたりと止まってしまった。


女の子のような顔や、細い体は、
まだ人間のままである。


だが、いつまで待っても、
それ以上、変化が起こることはなかった。


それを見守っていたサクレ・クール寺院の猫司祭が、
オメガを指差し、震える声で絶叫した。

シシ教に伝わる半猫・ヨーガの再来じゃ!!
第二の魔王を生み、この世を終わらせる前兆じゃあ!!
この間子を殺せええええええええ!!!

長年の辛抱に耐え兼ねたように、実子を殺そうと鞘から剣を抜く父、
全てを諦めたように青い顔ですすり泣くだけの母、
衛兵達がゆっくりとオメガを取り囲みだす…。


…オメガは逃げた。


衛兵達を突き飛ばし、広間を飛び出し、
全力で走り出し、
ハイルランド城を抜け出すと、白峠を越えて、
鳥使いの丘を越えて、地球塔を越えて、
朱雀の森を越えて、

オメガは走り続けた。
王家から、伝説から、人生から、
何もかもから逃げるように走り続けた。

足は凍傷になり、感覚はとうにない。
冷めたさに肺が焼けても、ずっと走った。


やがて疲れ果て、
力尽きるように雪の上に倒れた。

もう動けないほど疲れているのに、
涙だけは落ちて、
ほんの少しだけ雪を溶かした。


……

…どしん、どしん


それは、朱雀の足音だった。
全長400メートルの一つ目の朱雀は、
倒れたうまそうなオメガを見つけると、
勢いよく口を開き、
オメガを雪ごと一呑みした。


オメガは落下した。

朱雀の食道を、どこまでも。どこまでも。

落下するオメガの頭の上から、
胃酸の雨が降り注いだ。


どさっ。


痛っ…。


オメガが起き上がると、
そこは、朱雀の胃袋の底…

…ではなく、

何故か東京都足立区の荒川河川敷の上だった。
真夜中で、激しい雨が降っていた。

目の前には、
泥だらけの一枚の紙切れが落ちていた。

それは、
とある音楽事務所の企みに参加するための
応募用紙だった。


彼の名は、オメガ・タンタン


嫌いなことは、"伝説"


戻らない!!!!!






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第3話 オメガ゜