【甫蓮国御伽草子絵巻】
冰櫻

さるほどに、甫蓮国の冬は冷たく厳しきものなり。広大なる野は塵芥のごとき雪覆ひ隠すものなれど、それとともにわたりの間を斬りてまはる色うちいづといふ。
まさに身を切らむその寒風を指してわたりはそれを人斬り、さむらいと呼びき。冬が来て、雪景色のため息があたり埋め尽くすほどにならばかの「さむらい」はあたり駆け回り、人斬り続くべくなる。雪の白に血のしほたるる色の麗しさを冰櫻と称せしためしより、そは「冰櫻」といふ名の侍にてこの国といふことになりき。
ある日のこと、冰櫻切り裂かむと寿天派の留よりひとりのものやりきたり。人は冰櫻の前に手差しいだし「しばしのときをともにふらば、わかることもあらむ」と言ひき。冰櫻は「といへども我が役目はうつろはぬ、きみのことも冬にて切り裂かむ。それにてもありぬべしや」と問ひかけ、人は首肯せり。斯くし、冬は人切り裂きつつ幾日もの時を経き。
さるうちに、外より雪景色は失はれ、冰櫻もその刃の精彩を欠けり。窓の外、春風の吹きすさぶを見冰櫻も「この身切り裂きて、かの雪景色のかたはらへと埋めたまへ。させば、我が身もまた春となることならむ」人の言ふ通りにすと、すなはちそこには桜の木育ち、花を咲かせき。
冬切り裂かばその先に春あり。
彼らの死は春の訪れなり。

:::らくがき帳







：：：バザー品：：：

■冰砂糖
口に含むと桜の香りがする氷砂糖。

■絹雪織物
ひんやりと冷たい絹雪の織物。しろくてなめらか。

■髪枝簪
桜の枝。魔除けの簪である

■薄冰刃
冰櫻が人を斬り裂く刀。氷のように薄く、冷たく、美しい。

■冰の指先
触れたものは凍えてしまう、冬の寒さ。

■冰櫻の頭
冰櫻の融け途切れた頭部。融けた水から櫻が育つ。

■冬櫻の花挿頭
冬の吐息と、冰水で育った冬櫻で作った花挿頭。
溶けない氷と春の香りでできている。

■雪融水と春の息吹

春。