第二十五次富士登山隊のある隊員の独白
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富士の火口に化け物が棲みつくようになって数十年。ニホンに富士の頂上の景色を知るものはもうほとんどいない。ニホンは幾度となく、山頂の化け物の巣を撲滅するために軍隊を派遣しているが結果は芳しくない。俺はその登頂ミッションの25回目の隊員だ。現在地は八合目。24回目の隊員たちの最後の通信はこの辺りだったらしい。雪景色の中で深緑の隊服は目立つ。俺は岩陰に隠れ、ライフルを構える。
「ポジションにつきました。佐藤待機してます」
ヘッドホンの無線にそう囁く。吐く息は白かった。不思議と寒さは感じない。このあたりの登山道を化け物の群れが巡回しているという情報は前回の隊員たちからの情報だ。俺が群れの真ん中にいるボスを仕留めて、統率を失った群れを他の隊員が叩くというシンプルな作戦だ。
「了解」
隊長からの短い返事がヘッドホンから聞こえる。ここからはひたすら奴らが来るのを待つ。巡回がどんな頻度かはわからない。ただ24回目の隊員たちの命懸けで残してくれた情報を信じるのだ。強い風が吹く。きっととても冷たい風だ。でもやっぱり不思議と寒さは感じない。いくらでも待てる。あの化け物たちを倒すためなら。みんなが当たり前に笑える時代を切り開くためなら。ライフルを支える指先は赤い。だけど俺はやっぱり、寒くはなかった。




2023.01.01
(一緒に戦ってくれた皆さんありがとうございました！)



珊瑚くんは小さなころから青年期までおじいちゃんと二人暮らしをしていました。その関係もあってお料理が上手です。