竜を討ち倒しかの聖アロデルはこう言った。
「いったい誰が、星々に手を伸ばすことをためらうと言うのでしょうか」

──而して、男に貸し与えられた力は
何者にも心を傾けることを許されないものであった。


髪は色褪せ、目元には険と隈のある、鬱々として堅硬な男。
外見とは裏腹に腰は低く、己を愚身と称して憚らない凡庸な神父である。
彼に貸与された武装は竜の頤を打ち砕いたとされる聖アロデルの遺物であるが、
使用者は一定以上の身体反応──『感情の変化』を持たない者に限られる。

「俺に信心以外の何が許されようか」


──────────

◆聖アロデルの詩篇
旧き神への賛美の詩。120の詩歌から構成される内、
大いなる獣(竜)と対峙する3編のみを示して聖アロデルの詩篇と呼ぶ。

「『砕かれよ、砕かれよ。
　わたしの言葉があなたの口に呑み込まれるというのなら、
　あなたは剣を捨て、人におののく獣となったのだ』」

「……驚くことに、聖アロデルの竜殺しにまつわる記述は23章のみですが、
　教訓や戦歌としても歌われることが多く、戦士が誓いの言葉としていることもあります。
　は。祈り？ これも祈りの言葉に違いはありませんが、
　飯の時間もずっと歌っている訳には参りませんので……」

◆銀十字の耳飾り

「自分の世界では竜の左の心臓を『空の杯』と呼びます。
　演算器でなければ内臓器官でもない空白の臓器には謎が多く、
　竜が起こす数々の奇跡と関係があるのではないか──とも言われています」

「この銀十字の耳飾りは左の耳につけることで竜の心臓に杭を打ち、
　右の耳につけることで神の加護を受ける……
　言わば、願掛けやお守りのようなものです。無論、竜の奇跡にあやかる意味もあります。
　……あなたの首飾りとも似た意匠ですね。は。ならば効果も期待できるかと……」

◆対霊装衣

「は。見事な腕前で。果てを前にしてさぞ無念かと心中察するに有り余りますが、
　未だ若輩の身、敬服の念に堪えません。
　……こちらは『教会』の平服に用いられている衣服です。
　対霊・対竜の防御術式は自動(オート)で発動、拳銃弾程度であれば問答無用で停止させます。

　ご明察の通り、戦闘服です。
　自分の役職である『神父』とは兵士と変わりありません。
　……忝い。遊びがない男だとは、良く……」