2022 / 3 / 6

…それは、夢の話。
いつでもない時間の、どこでもない場所に
永遠に眠り続ける一匹の青い猫がいたそうです。
その猫は、決して目覚めることがなく、
その無限の眠りの中で、壮大な夢を見ました。
いくつもの国、いくつもの歴史を夢の中で描き、
いくつもの争いや、いくつもの冒険…
更にそれは、その猫だけの夢に、収まりませんでした。
そこに、何人もの夢が引きずり込まれていったのです。
どこかの世界の誰かが眠っている間に見ている夢が、時空を超越して
猫の夢に引き寄せられ、混じり、溶け合い、
それはどこまでも広がって、
まるで1つの別宇宙のように巨大化していったのです。
だから、猫の夢の中には、猫自身が知らない、様々な人がいました。
名もなき冒険者もいたし、
伝説の暴君や、伝説の破壊神もいました。
神話上の戦士達もいたし、
どこかの宇宙の街がまるごと存在していたりもしました。
また、その夢世界の中心には、星都と呼ばれる王国があり、
大勢の夢人が住み、生活をし、
星都の奥に建つお城には、
一人の美しい星姫様が住んでいて……
その星姫様は、夢猫の世界全体を支える柱"星塔"を守る一族の末裔で…
…そうやって、
縦横無尽に繋ぎ合わされた、果てしなく列なる一大年代記を、
その猫は夢の中で見続けていたのです……。
しかし……
永遠に覚めることのないはずの、その夢が
ある時、ぱたりと消えました。
夢世界の住人の間には、
"その猫が眠りから覚める時が、世界の終わりである"という
終末思想が長い間存在していましたが、
…それは、猫が目覚めたわけでもなく、
星塔が崩壊したわけでもなく、
なんの理由もなく、
ただ、
…ふっと消えたのです
その猫と一緒に。
…多くの人々、多くの世界、多くの歴史、そしてその猫も、
全部が、最初から存在していなかったみたいに消えました。
それは元々、いつでもなく、どこでもない所にいた、
たった一匹の猫の夢の中で起きていたことだから、
それが全部消えてしまっても、
無数の宇宙の誰一人として、それを知ることはありませんでした。
そのはずでした。
ところが、
ある宇宙のある日の雨の夜…
地球の西新井と呼ばれる街に、
男は唐突に出現したのです。
「ここは……、そうか、西新井か、知っている…」
男は鼻をすんすんと鳴らして匂いを嗅ぎました
「チュルホロ人の匂いがする…、他にも…、どれも知っている匂いだ
…でも、…ここは、"猫"の夢の中じゃない…」
男ははっとして、後ろを振り返りました。
つきさっきまでそこに、その"夢"があったというみたいに。
「僕は……」
男は今度は、自分の両の掌を凝視しました。
分厚くて揺るぎのないその掌に、大きな雨粒が打ち付けます。
それから男は天を仰ぐと、
まるで何かを呪うように、目を見開きました。
その目からは涙が流れ、すぐに雨水と混じり合いました…。
大きな宇宙(ゆめ)が消えたのに、誰も気付かない…
でも、僕が生まれた…
全てが消えたはずなのに、代わりに僕が生まれたんだ。
僕はいったい…
僕は…、僕の名は…
男はそう呟くと、
まるで復讐でも決意したみたいに険しく頷いて、
雨の夜の街へと、駆け出して行ったのでした。
男の名は、ヴィヒトレイ・スターダンス
嫌いなことは、眠ること。
戻らない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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第5話 ヴィヒトレイ