暖冬は嫌いなの。
眠り、停滞の季節が生き生きとしていて、眠るはずの生き物も眠らなくて。
せっかく春が来ても、春が来たという実感が湧かない。厳しい冬があるからこそ、暖かな春に涙するというのに。

今年は随分と暖かくて嫌になる。
雪を降らせてもすぐに溶けて水になる。
終わりがあるから始まりがある。
私が冬が好きなのは、春が来るからだというのに。
停滞が変化し、動き出すこの変動が好きだというのに。


だから。
来ないんだと焦った。冬にだけ会える、あの人が。




あーあ、始まる前から泣いちゃった。恥ずかしいったらありゃしないわ。


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92試合目









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108試合目











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140試合目








夢を利用しやって来ている彼女は、去る際はまるで夢から醒めるかのようにふわりと居なくなる。
それは春がやってきて、雪が解けて消えるかのように。
されど人として生を謳歌する彼女は幻想とは違い、ほんの少しだけの痕跡を残していく。
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バザーの商品
■死神のカード
「死と再生のカード。何かが終わり、新たに始まる。私はこのカード、好きよ。まるで冬と春みたいで。

　そのカードはトリサ、って呼んであげてね」
「売り出した瞬間ねこちゃんが買って行ったわ。……食べる気かしら？」


■悪魔のカード
「悪魔に唆されるカードだから、逆位置の方が良い意味なのよね。でもこのカードの人物って顔が悪魔的なだけで……中身は……

　そのカードはペテン、って呼んであげてね」
「こっちも売り出した瞬間ねこちゃんが買って行ったわ。これも食べるの？」


■女教皇のカード
「知性を示すカードよ。洞察力や冷静さ、相反するものをしっかりと見つめ、正しく判断できる…….なんかこれ泥臭くない？　泥水でもぶち撒けた？

　そのカードはティファール、って呼んで……あ、違う？　ティオール？　紛らわしいわねティファールでいいでしょ」
「また猫ちゃんが買って行っちゃったわ……それも食べるの？　泥臭いわよ？　ちゃんと泥抜きして食べなさいよ食べるなら」


■スポイルの花束
「ふざけて作っちゃった」
「ああーーーこれも猫ちゃんが！！　どうするのそれ！？　あなたスポイル成功させて得た魔力活かせないでしょう！？」


■透明な雪の花
「そのまんま。掌サイズの雪の花よ。
　知っている？　氷が白く見えるのは、中に空気が残っているからなの。だから不純物を取り除いて、長い時間かけて凍らせると透明な氷になる。
　そうして清々した氷……もとい、大きな雪の花よ。綺麗でしょう？
　気胸が作っていた花を模倣してみた……んだけど、本人が買って行っちゃったわ」


■氷の花冠
「雪の女王って童話を知っているかしら？　あれのつもりで王冠を作ろうとして、けれども折角だから雪の結晶を盛り込みたいと思って。そうして花の形をした冠を作狼と思ったのだけれども、つけた名前が別の意味に聞こえちゃってね。
　仕方ないから花冠のように、雪の結晶をいくつか繋げて輪っかにしたのよ。そう簡単に溶けないようにちゃんと術式を組んだわよ。
　全然そんなつもりではなかったのに、気胸のあれみたいになっちゃったわ。あの人のものみたいに浮かないけれどもね」
「なんて言っていたら、こっちも本人が買っていったわ。輪っかが二重になっちゃわないかしら。
　性質は違うけれども、本人は透明な花を咲かせるし、ぴったり……かしら？」


■紅色のバレッタ
「別にお気に入りってわけでもないのだけれども、ずっと同じものを使っているのよね。
　それとお揃いのバレッタをこの前見つけたから、バザーに出してみることにしたの。大きなカーネリアンを加工して作ったものよ。死者が死後の世界へ旅立つのを守るお守りとされてきた、なんてお話もあるのよ。
　そんな高そうなものいいのかって？　貴族を殺……お偉いさんが私の功績を褒めてくれて譲り受けたものなの。だから、誰か好きそうな人がお金にしてくれた方がいいわ」
「え、持っていくの早いじゃない。アンゼンったら、それそんなに気に入ったの？
　あなたと言えば紅色だし、なるほど確かに似合いそうね」


■藍銅鉱の魔結晶
「禁術の永遠の冬は、高濃度の魔力結界を生成するの。魔結晶は高濃度の魔力が凝縮されて生み出されるもの。本来は純粋な魔石や結晶が生まれるのだけれども、他の要因が不純物として混ざって、異質なものが生まれることがあるの。これはそうして出来上がった、アズライトによく似た魔結晶よ。
　大元の魔法が氷属性だから、内包されているものも氷……というか、冬ね。今年は暖冬だから、厳しい冬の気配だけでも持ち帰ってほしいものだわ」
「アウィソが持っていったわね。魔術師としては興味深い代物ではないかしら。
　冬の魔術から生成された結晶だけれども、忘れないでちょうだい。いつか、春は来るものよ。
　どういう意味かって？　それを考えるのが楽しいんじゃない」


■勇者一行ロゴ
「これで隠すな」





■再会の約束
彼女がこの場から去った際に生まれた、彼女も知らない雪の結晶。
暖冬の中に残した小さな奇跡。冬を忘れさせない雪の片鱗。
遠回しの
「来年は遅れずにちゃんと集合しなさいよ」
の言葉だ。